アイスコーヒー50句   上田信治

てのひらのあかるき人に小鳥来る

其のうへをひかりのとほる運動会

けん玉のかちりと入る秋の暮

ひもつけて鶏飼ふ家や鳳仙花

四つ割の柿と写真の二三枚

向かひあふ銀杏二本の散りつづく

ひよどりは隣の庭へゆくつもり

きらきらときこえぬことば鳥威

蓑虫の水のうへなるけしきかな

ゆふがたを川の流れていぼむしり

さつきから犬は何見て秋の風

椎茸や人にこころの一つづつ

冬の浜より国道へもどるみち

くりかへす電光ニュース海に雪

水涸れていつせいに人笑ひけり

薬飲むとき見えてゐる柚子の種

少しづつかたちを変へて悴める

はつふゆの裸足に踏んで新聞紙

があと鳴る毛糸編み機や冬の雨

大根に雨降つてゐるなつかしさ

いちおうは親切にする青木の実

よこむきに飼はれてゐたる兎かな

うしろへと髪のびゆける冬木かな

公園の柵に干さるる毛布かな

狛犬のあたまに雪の高く積む

牡丹雪ちひさくなつて急にやむ

雪虫は煮豆のうへを飛んでゐし

らくがんをがりがりと食べ梅の花

はつさくが鈴生り車庫の口四角

室内のひかりのなかを春の蝿

読みさしに白紙をはさむ孕み鳥

砂利の山シロツメクサの少し生え

歯痛頭痛ときどき雲雀鳴きにけり

防風や風は見てゐるはうへゆき

鯥五郎いづれ地球は水びたし

ラブホテルばかりの駅や朝桜

日永とは力の脱けてゐる河口

ひきだしの底板うすき麦の秋

ふたしかな荷物を抱へ青薄

夏の夜の棒高跳びの雨になる

しろがねの蚊遣の脚の汚れけり

つながつて家の暮れゆく花南瓜

ただ食べてをはる一日扇風機

舟の絵の夏掛かけて子供かな

コンビニエンスストアに一人ゐて夕立

ほとんどの石濡れてゐる造り滝

たくさんの人が見てゐる夏の川

あけがたの工場群よ向日葵よ

アイスコーヒー上より薄くなりゆける

あなたきつとわすれる腐草螢になる


2008.5