郊外50句   上田信治

屋上に四方のありて秋の声


つくつくし池は雨ふる前の色


蓮の実のあちこち向いて静かな日


階段に窓の明るき秋夜かな


どこまでも流しを歩む菜虫はも


金柑のこの中に種二つ三つ


水の輪のやうな舗石へ柳散る


名月の見晴台にそつと立つ


ひとり見る水草紅葉あをぞらの


燐寸擦る手指のうごき秋風に


人の背の半分ほどの鶏頭花


朝の下駄冷たし仕方なく庭へ


花一つあり山茶花と知られける


どこからとなき日の当り落葉籠


すぐそこに灯台のある葱畑


砂浜の名の分からない焚火かな


鱈買つて夕方暗く恐ろしく


雪の降る川をボートの行く日かな


橋の雪ゆつくり落ちぬ川面まで


天井の暖房器具の口ひらく


ま上から見るガス工事冬の雨


川ありて大船観音ゆりかもめ


いま水にしづめし昆布冬の山


絨緞に文鳥のゐてまだ午前


見てゐしは灰上りゆく春の空


ねぢらるる太き針金風光る


雑木の芽コンクリートの乾きゆく


紅梅や芝一ところ円く焦げ


海の方より春の蚊の上り来し


春光や古き硝子の濡るるかに


つちふるやフェンス両側に犬に


ぎしぎしと蕾暮れゆく桜かな


部屋にある窓ことごとく春の雨


春陰の蛍光灯やあまた点く


あたたかき雨果てて自転車の籠


つばくらめ今日側溝に水の音


郊外の荒模様なる牡丹かな


蝸牛雨の手すりのうらがはに


白薔薇空へ欠伸を返すなり


とほくから見る金魚田の深緑


水色の空をうしろに柿の花


まな板に水うすくある日雷


あたらしき棚拭きをりぬ冷し瓜


目白とは厚みを持たぬやうな鳥


空豆は夜のはじめの方に食べ


なつくさの空地の向う側も道


手花火をさし上ぐるとき人の顔


夕焼を余し暮れけり錫の皿


しばらくは海を私して泳ぐ


公園に虹のでてゐる昏さかな




2009.5